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東京高等裁判所 平成2年(ネ)2735号 判決 1992年4月27日

東京都中央区日本橋小舟町五番七号

控訴人

株式会社アドバンス

右代表者代表取締役

浦壁伸周

右訴訟代理人弁護士

宇井正一

右輔佐人弁理士

畑泰之

五十嵐省三

長崎県佐世保市新行江町八〇〇番地

被控訴人

株式会社日本理工医学研究所

右代表者代表取締役

阿比留忠徳

右訴訟代理人弁護士

水田耕一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、原判決別紙目録(これを引用する。)記載の物件を製造・販売してはならない。

3  訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言。

二  被控訴人

主文同旨。

第二  当事者双方の主張及び証拠関係

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加する外、原判決の事実欄の第二(当事者双方の主張)及び第三(証拠関係)のとおりであるからこれを引用する。

一  控訴人

1  本件考案における「昇圧トランス」とは、ファラディの法則を利用した昇圧機能を有するコイルであり、原判決別紙目録記載の物件(以下「被告製品」という。)のコイル3もこのような昇圧機能を有するコイルであるから、被告製品のコイル3は、本件考案の「昇圧トランス」に該当する。

そもそも、甲第五号証に記載されているとおり、「トランス」とは「トランスフォーマの略で、性質、機能などを変化または変形させるものを意味する。・・・コイルとトランスとは、二端子と四端子との差、したがって機能的な差があるが、設計および構造上本質的な相違がないので、一般に一括した分類が行われている。」のであり、コイルとトランスとは、機能などを変化または変形させるという観点でみれば、全く同一の技術要素として把握されているものであり、通常単に「トランス」と称する場合には、コイルと称されるものもトランスと機能が同じ物であるから、一個のコイルだけのもの(二端子)も、二個のコイルを含むもの(四端子)も含む広い意味に解釈されるものである。また、甲第六号証には、一個のコイルによって二個のコイルの役目をさせた単巻トランスが記載されており、一個のコイルによってトランスと同じ機能を持たせることは周知であった。

被告製品におけるコイルをみると、その形態は一個のコイルから構成されているとしても、トランスの機能を有しており、かつ、そのコイルは入力と出力を有するものであるから四端子構造を有するものというべきであって、まさしくトランスに該当する。

本件考案における「昇圧トランス」とは、従来、技術常識として一般的に理解されているように、正弦波交流を入力してその微分波形である正弦波交流を出力するというものではなく、パルスを入力してその微分波形を利用して大きな電圧を出力するもの、つまり昇圧した電圧を出力する機能を有するものである。したがって、本件考案の「昇圧トランス」では、コイルの数が一つであるか二つであるかは問題ではない。当業者の常識として、パルスを入力とする昇圧回路においては、コイルが一つのものも、二つのものも機能的には相違ないものとされており、入力パルスの電圧を高めるために、単巻コイルを使用するか、二個のコイルを使用するかは、当業者が必要に応じて適宜使用し得る程度のことである。

もともと、「トランス」とは、昇降圧機能を持つコイルなのであって、コイルという名称を使用したからといって、トランスでないとはいえない。

2  考案の技術的範囲は実用新案登録請求の範囲の文言どおりに定められるものであるが、公平の原則から均等論の適用を排除するものではない。均等論は、法律的な問題として、実用新案権者の公正な保護と第三者に対する法的安定性との調和から認められているものである。均等論の容認にあたっては、

(一) 考案が採用した技術原理と同一であり、したがって、考案を構成する要素の一部について同一機能を有する他の要素と置換しても同一の作用、効果を奏すること、

(二) (一)の置換が当業者間で容易に想到し得る程度のものと認められること、

が必要とされている。

3  仮に、本件考案の「昇圧トランス」が、被控訴人の主張するような二つのコイルを有する構成のものに限ると限定的に解釈すべきものとしても、被告製品のコイルは本件考案の昇圧トランスの均等物である。

(一) 本件考案の技術原理と被告製品の技術原理とは、同一である。つまり、電池を用いて負荷に大電流(連続的に電流を流す)を流すと電池の消耗が激しく、その寿命(耐用時間)が短くなることから、従来、低周波治療器に電池を内蔵せしめたものは不可能であった。そこで、本件考案は、電池の消耗を防止して、電池の耐用時間を長くして電池内蔵の低周波治療器を可能にしたものである。このため、電池から負荷(この場合、昇圧トランス)への電流供給を間欠的に、つまりパルス的に行うことにより電池の消耗を防ぎ、しかも、ある時間に亘って電気信号をコンデンサに蓄積した上で大きな電気刺激信号を得るものである。このような技術原理を採用していることは、本件考案も被告製品も同じである。

本件考案の昇圧トランスが、仮りに、二つのコイルを有するものに限定されるとしても、この昇圧トランスを被告製品のコイルに置換しても、その作用効果は、いずれもファラディの法則に従い磁束の微分波形を出力するものであるから、同一である。

(二) さらに右狭義の昇圧トランスを被告製品のコイルに置換することは当業者にとって容易に想到し得る程度のものと認められる。なぜなら、本件出願当初から単巻トランスが公知であり、いわゆるトランスはそのコイル数を問題としないからである。そもそも、本件考案は、出願当初から、電池の消耗を防ぐために、電池からの電流供給を「パルス」的に行うものであり、「パルス的」に駆動される狭義昇圧トランスも、「パルス的」に駆動される単巻トランス(一つのコイルをも含む)も本来出願人が意図したものであり、パルス的に駆動される一つのコイルを排除することは、公平の原則から容認し難い。

4  被告製品においては、出力コンデンサにコイルの電磁エネルギーが低周波パルスのオン・オフにかかわりなく充電されるようにドライバ回路を駆動すべくプログラムされたコンピュータプログラムを有する集積型信号処理回路の該ドライバ回路を駆動するための出力の発生を制御するプログラムに、出力コンデンサの充電状態に関する情報を提供する回路が存在する。これは、ドライバ回路を駆動するための出力の発生を、信号処理回路を介して制御していることであって、出力コンデンサの充電状態に応じてドライバ回路の駆動時間のオン・オフを決定しているのであるから、被告製品はドライバ回路の駆動時間を規制する構成を具備している。

二  被控訴人

控訴人の右主張は争う。

1  本件に主張されている権利は実用新案権である。実用新案権は、物品の形状、構造又は組合わせに係る考案について与えられるものである。したがって、構造について付与されている実用新案権を機能について与えられているかの如く拡張解釈することは許されない。

コイルと昇圧トランスとが構造を異にするものである以上、たとえ両者の機能が同一でも、本件考案の技術的範囲の解釈において前者が後者に含まれるとする余地はない。

2  甲第五号証の、「コイルおよびトランス」の節の「定義」の項をみると、コイルとは、本来らせん状に巻いたものをいい、電気的に導通があるか、磁束と鎖交するかなどは問題としないが、電気的な見方では、幾何学的にぐるぐる巻かれた電流通路を有し、電気回路内で自己インダクタンスとして作用する電子部品をいう、とされ、トランスとは、共通の磁気回路を持つ二個のコイルを組み合わせて、電磁誘導現象を利用して交流電圧の昇降、インピーダンスの交換などのいわゆる変圧器作用を行う電子部品である、とされ、両者は明確に別物とされている。また、同号証の「動作原理」の項では、コイルとトランスの動作原理が明瞭に異なることが示され、「分類上の位置」の項には、コイルとトランスは、二端子と四端子の差、したがって機能的な差があることが明瞭に示されている。

3  被告製品にあっては、低周波パルスのオン・オフにかかわりなく、即ち、出力コンデンサの放電時にも、出力コンデンサにコイルの電磁エネルギーが充電されるようにドライバ回路が駆動されるのである。被告製品には、出力コンデンサの放電時にドライバ回路を駆動停止する作用を営む回路は存在しない。したがって、被告製品は、本件考案の「調整回路」を具備していない。

三  当審における新たな証拠関係は、当審記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

一  当裁判所は、控訴人の本件請求は理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり加除、訂正する外、原判決の理由のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決一三丁表五行から七行まで(1の項)を、「1 請求の原因3(一)の事実は当事者間に争いがない。」と訂正する。

2  原判決一三丁表八行の「前掲」を、「成立について争いのない」と訂正する。

3  原判決一四丁表三行の「そして、」を削除し、改行の上、「3 まず、被告製品が本件考案の構成要件Bロ「該ドライバ回路の駆動により出力する昇圧トランス」を充足するか否かについて判断する。」を加入する。

4  原判決一四丁表四行の「成立に争いのない」の次に、「甲第五号証、第六号証、」を加入する。

5  原判決一四丁表一〇行の「供給するもの」の次に、「、あるいは、絶縁された二個のコイル(一次コイルと二次コイル)と、これらコイルに共通な一個の磁心との組合わせからなり、磁心をなかだちとして、二個のコイルが鎖状に結合されているため、一次コイルに交流電流等時間的に変化する電流を流すと、コイルに鎖交した磁束が磁心内に生じ、この磁束によって二次コイルに電圧を誘起するもので、二次コイルに生じる電圧の大きさは、一次コイルに対する二次コイルの巻数に比例するので、両コイルの巻数を適当に選ぶことによって、二次コイルに任意の電圧を発生させることができるもの等と説明されるもの」を加入する。

6  原判決一五丁表一一行の「ものである旨」の次に、「、及び本件考案における「昇圧トランス」とは、従来、技術常識として一般的に理解されているように、正弦波交流を入力してその微分波形である正弦波交流を出力するというものではなく、パルスを入力してその微分波形を利用して大きな電圧を出力するもの、つまり昇圧した電圧を出力する機能を有するものであり、本件考案の「昇圧トランス」では、コイルの数が一つであるか二つであるかは問題ではない旨」を加入する。

7  原判決一五丁裏一〇行の「供給するもの」の次に、「、あるいは、絶縁された二個のコイル(一次コイルと二次コイル)と、これらコイルに共通な一個の磁心との組合わせからなり、磁心をなかだちとして、二個のコイルが鎖状に結合されているため、一次コイルに交流電流等時間的に変化する電流を流すと、コイルに鎖交した磁束が磁心内に生じ、この磁束によって二次コイルに電圧を誘起するもので、二次コイルに生じる電圧の大きさは、一次コイルに対する二次コイルの巻数に比例するので、両コイルの巻数を適当に選ぶことによって、二次コイルに任意の電圧を発生させることができるもの等と説明されるもの」を加入する。

8  原判決一五丁裏一一行の「矛盾するものではなく、」を、「矛盾するものではない。即ち、一次コイルと二次コイルの巻数比に応じて任意の電圧を発生させる前記(1)認定の昇圧原理の昇圧トランスにパルスを入力した場合の動作は、該トランスの一次コイルと二次コイルの極性の取り方によってこ通り考えられるが、そのいずれの場合であっても、ドライブ回路がオンの期間に一次コイルに流れる励磁電流が一次コイルと二次コイルの巻数比に応じて昇圧した電流を二次コイルに誘起する、又は、ドライバ回路がオフになった時一次コイルに生ずる高圧の逆起電力が一次コイルと二次コイルの巻数比に応じて昇圧した電流を二次コイルに誘起するというように、一次コイルと二次コイルの巻数比に応じて任意の電圧を発生させる前記(1)認定の昇圧原理が作用することは当裁判所に顕著であり、昇圧トランスにパルスを入力するものであるからといって、本件考案の昇圧トランスが前記(1)認定の昇圧原理のものであることと矛盾するものではない。

控訴人は、本件考案における「昇圧トランス」とは、ファラディの法則を利用した昇圧機能を有するコイルであり、被告製品のコイルもこのような昇圧機能を有するコイルであるから、被告製品のコイルは、本件考案の「昇圧トランス」に該当する旨、コイルとトランスとは、機能などを変化または変形させるという観点でみれば、全く同一の技術要素として把握されているものであり、通常単に「トランス」と称する場合には、コイルと称されるものもトランスと機能が同じ物であるから、一個のコイルだけのもの(二端子)も、二個のコイルを含むもの(四端子)も含む広い意味に解釈されるものである旨、被告製品におけるコイルの形態は一個のコイルから構成されているとしても、トランスの機能を有しており、かつ、そのコイルと入力と出力を有するものであるから四端子構造を有するものというべきであって、まさしくトランスに該当する旨等主張するが、前記甲第五号証によれば、トランスとコイルとでは、定義、動作原理、二端子と四端子の差から生ずる機能の差等の差異があるものと認められ、本件考案の昇圧トランスは、前記認定のとおりのものと認められ、」と訂正する。

9  原判決一六丁表四行の次に、改行の上、次のとおり加入する。

「なお、実用新案登録された考案の技術的範囲は、願書に添附された明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないが、<1>実用新案登録請求の範囲の解釈によって定まる登録考案の構成要件の一部を他の要素に置換した技術が、登録考案と目的を同じくし、同じ作用効果を奏し(置換可能性があり)、<2>そのような置換される要素の存在自体及び置換によつて同じ作用効果を奏することが当業者に自明であり、かつ、<3>出願人が右のように構成要件の一部を置換した技術を意識的に実用新案登録請求の範囲から除外したという事情がないこと又は登録考案がその構成要件の一部を置換した技術を含むものであることが明示されていたならば登録が拒絶されていた可能性があるという事情がないことを、構成要件の一部を置換した技術が登録された考案の技術的範囲に属すると主張する当事者が主張、立証した場合には、その技術は登録考案と均等なものとして登録考案の技術的範囲に属するものと解する余地がある。しかしながら、本件においては右三要件の証明がなく、控訴人の主張は採用できない。しかも、後記4のとおり、被告製品は本件考案の構成要件Bホを充足しないものである。」

10  原判決一六丁表五行から一九丁表二行までの3の項全部を、次のとおり訂正する。

「4 次に、被告製品が本件考案の構成要件Bホの「前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路を有すること」を充足しているか否かについて判断する。

(一)  前記2認定の本件考案の特徴と前記甲第一号証によれば、本件考案は、ドライバ回路の駆動により出力する昇圧トランスの出力をコンデンサに充電し、これを低周波パルスの通電時間幅の間に放電することにより、従来技術の、電池から比較的大きな電流を短時間に供給するため電池の消耗が著しく耐用時間が短くなるという問題点を解決し、ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路を備えることにより、ドライバ回路の駆動規制をし、電池の消耗の無駄を極力抑え、この面からも電池の耐用時間を可及的に長くする効果を奏するものと認められる。

(二)  そこで、本件考案の要件Bホにいう、ドライバ回路の「駆動時間を規制する」ことの意味について検討する。

電気回路に印加されるのが交流信号、例えば正弦波信号の場合、「回路の駆動」とは、回路が動作している状態をいい、「回路の駆動時間を規制する」とは、回路が動作状態にある時間を規制することと解することは、技術常識として当裁判所に顕著である。

したがって、回路に印加されるのが周期的パルスの場合においても、通常は右と同じく、「回路の駆動」とは、回路が動作している状態、即ち、周期的パルスが印加される場合、回路には電流が通じているパルス期間と電流が通じていないパルス休止期間が交互に周期的に現れることになるが、その両期間を合わせて回路が動作している状態をいい、「回路の駆動時間を規制する」とは、その両期間を合わせて回路が動作状態にある時間を規制する、例えば、回路が動作している状態を引き伸ばしたり、打ち切ったり、途中で停止と動作を繰り返したりして、動作状態にある時間を長くしたり、短くしたりする等の意味と解されるものと認められる。

しかし、回路に印加される分が周期的パルスである場合、回路には電流が通じているパルス期間と電流が通じていないパルス休止期間が交互に周期的に現れることから、「回路の駆動」とは、回路に電流が通じているパルス期間の状態をいう場合もあるものと認められ、この場合、「回路の駆動時間を規制する」とは、回路に電流が通じているパルス期間の合計時間を規制する、例えば、前記のように回路が動作している状態を引き伸ばしたり、打ち切ったり、途中で停止と動作を繰り返したりする他、一回のパルス期間の長さを変更したり、一回のパルス休止期間の長さを変更する(パルスの周波数を変更する)等を含めて、回路が動作状態にある時間を長くしたり、短くしたりすることをいうと解される。

実用新案登録された考案の技術的範囲は、願書に添附された明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないので、まず、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載を検討するに、本件考案の構成要件Bホにいう「回路の駆動時間を規制する」が、前記二通りの解釈のいずれの意味であるかを明ちかにする記載はない。

(三)  そこで次に、実用新案登録請求の範囲の記載を補充するものとして本件明細書の考案の詳細な説明の欄について検討する。

(1) 本件明細書の考案の詳細な説明の欄の記載によれば、本件考案は、ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路を備えることにより、ドライバ回路の駆動規制をし、電池の消耗の無駄を極力抑え、この面からも電池の耐用時間を可及的に長くする効果を奏するものであることは前記認定のとおりであるから、右調整回路はドライバ回路の駆動時間を短縮するように規制するものであることはうかがうことができるけれども、本件考案の構成要件Bホにいう「回路の駆動時間を規制する」が、前記(二)記載の二通りの解釈のいずれの意味であっても、ドライバ回路の駆動規制をし、電池の消耗を極力抑え、電池の耐用時間を可及的に長くする効果を奏することができるから、本件考案の効果との関係で、本件考案の構成要件Bホにいう「回路の駆動時間を規制する」の意味が、前記(二)記載の二通りの解釈のいずれであるかを明らかにはできない。

(2) そこで、本件明細書の考案の詳細な説明の欄中の各実施例におけるドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路の構成と作用効果についての記載を検討すると、前記甲第一号証によれば、

ア 本件考案の第1図の実施例は、出力コンデンサ5の放電時には、調整回路7の指令により、「ドライバ回路2を駆動停止にする」(本件公報二頁3欄二九行)という構成により、電池の消耗する割合を少なくしているものであるが、右の「ドライバ回路2を駆動停止にする」とは、ドライバ回路に周期的パルスが印加され、パルス期間とパルス休止期間の両期間を合わせて回路が動作している状態を停止し、回路が動作しない状態にすることを表していること、

イ 本件考案の第3図の実施例は、第1図の実施例と同様に、出力コンデンサ5の放電時には、調整回路17の指令により、ドライバ回路の駆動を停止する構成をとり、更に、スイッチング回路6がオフの時間中に「ドライバ回路2を間欠的に駆動させ」(本件公報二頁3欄三五行)、即ち、具体的には、調整回路17が、カウンタ10によって発振回路1の発振回数が予め定められた回数になったことを検出する毎に発振回路1の発振を瞬時停止して、ドライバ回路2の駆動を停止する構成も付加しているものであるが、右の「ドライバ回路2を間欠的に駆動させ」とは、ドライバ回路に周期的パルスが印加され、パルス期間とパルス休止期間の両期間を合わせて回路が動作している状態が間欠的に出現している状態を表していること、

ウ 本件考案の第5図の実施例は、第1図の実施例と同様に、出力コンデンサ5の放電時には、調整回路27の指令により、ドライバ回路の駆動を停止する構成をとり、更に、出力コンデンサ5の端子電圧が予め定められた設定値に達したことを調整回路27が検出した時に、調整回路27の指令により、発振回路1の発振を停止させ、又は出力停止にさせ、「ドライバ回路2を駆動停止にする」(本件公報二頁4欄三六行から三七行まで)規制を行うものであり、右の「ドライバ回路2を駆動停止にする」とは、前記アと同様に、ドライバ回路に周期的パルスが印加され、パルス期間とパルス休止期間の両期間を合わせて回路が動作している状態を停止し、回路が動作しない状態にすることを表していること、

エ したがって、いずれの実施例も、出力コンデンサの放電時、発振回路1の発振回数が予め定められた回数になったことが検出された時、または、出力コンデンサの端子電圧が予め定められた設定値に達したことが検出された時などの一定の条件で、調整回路がドライバ回路の駆動を停止することによって、ドライバ回路に印加される周期的パルスのパルス期間とパルス休止期間の両期間を合わせて回路が動作している状態の時間を短くして、電池の消耗の無駄を極力抑え、この面からも電池の耐用時間を可及的に長くする効果を奏するものであること、

が認められる。

前記(二)の二通りの解釈の内、「回路の駆動時間を規制する」とは、回路に電流が通じているパルス期間の合計時間を規制することを意味するとの解釈を採用しても、回路が動作している状態を打ち切ったり、途中で停止と動作を繰り返したりして、回路が動作状態にある時間を短くすることを含むものであることは前記(二)のとおりであるから、右のような三種の実施例が考案の詳細な説明の欄に記載されていること自体は、本件考案の構成要件中の「回路の駆動時間を規制する」との記載の意味を確定する根拠とすることはできない。

しかしながら、右認定のように、第1図の実施例及び第5図の実施例についての説明中の、「ドライバ回路2を駆動停止にする」とは、ドライバ回路に周期的パルスが印加され、パルス期間とパルス休止期間の両期間を合わせて回路が動作している状態を停止し、回路が動作しない状態にすることを表していること及び第3図の実施例についての説明中の、「ドライバ回路2を間欠的に駆動させ」とは、パルス期間とパルス休止期間の両期間を合わせて回路が動作している状態が間欠的に出現している状態を表していることによれば、右の「駆動停止」及び「間欠的に駆動させ」という場合の「駆動」とは、ドライバ回路に周期的パルスが印加され、パルス期間とパルス休止期間の両期間を合わせて回路が動作している状態を表しているのであって、回路に電流が通じていないパルス休止期間を除いた、回路に電流が通じているパルス期間の状態を表すものではないと認められる。

一つの明細書に使用される用語の意味が多義的である場合に、同じ用語が別の部分では異なる意味で使用されていることが明記されているとか、前後関係から自明であるという特段の事情のない限り、同じ用語は同じ意味で使用されているものと認められるところ、右各実施例の説明における「駆動」の意味と実用新案登録請求の範囲の欄における「駆動」の意味が異なる意味で使用されていることを示す特段の事情は認められないから、各実施例についての説明の中での「駆動」の意味が前記認定のとおりであることは、本件考案の構成要件Bホにおける「駆動」も同じ意味であると解する根拠となるものである。

(3) 更に、前記甲第一号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、本件考案の作用効果について、駆動時間を規制する調整回路を有しているので「ドライバ回路2の駆動停止規制で無駄を極力抑えている。」(本件公報三頁6欄八行から一〇行まで)との記載があることが認められ、本件考案の構成要件を満たすものの奏する作用効果として、ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路による「ドライバ回路の駆動停止規制」が挙げられており、ドライバ回路の駆動時間の規制とは「ドライバ回路の駆動停止規制」であることが示されており、ドライバ回路の動作状態を停止しないで、一回のパルス期間の長さを変更したり、一回のパルス休止期間の長さを変更する(パルスの周波数を変更する)ものは含まれないことを示しているものと解される。

(四)  右(三)認定の事実によれば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲中の「回路の駆動」とは、回路が動作している状態、即ち、パルス期間とパルス休止期間の両期間を合わせて回路が動作している状態をいい、「回路の駆動時間を規制する」とは、その両期間を合わせて回路が動作している状態を打ち切ったり、中断を加えて間欠的にする等停止することにより、動作状態にある時間を短縮することを意味するものであり、したがって本件考案の構成要件Bホの「前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有する」という構成は、「ドライバ回路が動作している状態を打ち切ったり、中断を加えて間欠的にする等停止することにより、動作状態にある時間を短縮する調整回路」を意味するものであると認められる。

(五)  これに対して、原判決別紙目録の記載によれば、被告製品は、出力コンデンサにコイルの電磁エネルギーが低周波パルスのオン・オフにかかわりなく充電されるようにドライバ回路を駆動すべくプログラムされたコンピュータプログラムを有する集積型信号処理回路の該ドライバ回路を駆動するための出力の発生を制御するプログラムに、出力コンデンサの充電状態に関する情報を提供する回路を具備しているもので、右のようにドライバ回路を駆動すべくプログラムされたコンピュータプログラムを有する集積型信号処理回路と該ドライバ回路を駆動するための出力の発生を制御するプログラムに出力コンデンサの充電状態に関する情報を提供する回路とが、ドライバ回路を制御、規制する調整回路に当たるものであることが認められる。

そして、被告製品では、集積型信号処理回路の有するコンピュータプログラムは、出力コンデンサにコイルの電磁エネルギーが「低周波パルスのオン・オフにかかわりなく充電されるようにドライバ回路を駆動すべく」プログラムされているのであるから、ドライバ回路の動作状態が継続するようにプログラムされているものと認められる。

したがって、被告製品は、ドライバ回路を制御、規制する調整回路が、「ドライバ回路が動作している状態を打ち切ったり、中断を加えて間欠的にする等停止することにより、動作状態にある時間を短縮する調整回路」の構成を具備しておらず、本件考案の構成要件Bホを充足しないものと認められる。

(六)  よって、控訴人の、被告製品は、本件考案の構成要件Bホを充足する旨の主張は採用できない。」

二  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西田美昭 裁判長裁判官元木伸は退官のため、裁判官島田清次郎は転補のため、いずれも署名押印できない。 裁判官 西田美昭)

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